御宿かわせみ「初春の客」

投稿者: | 2023年12月31日

平岩弓枝の『御宿かわせみ』を20年ぶりに通読する。20年前はとにかく勢いで一気読みしたが、2周目ということで、ゆっくり読んでいこうと思う。
シリーズの開幕のこの作品の初出が小説サンデー毎日昭和48年2月号というから、シリーズ開始から50年経つことになる。

「初春の客」
神林東吾の境遇から、かわせみの描写へと続き、手際よく人物の配置がされる。
東吾とるいの関係が描かれ、畝源三郎、東吾の兄神林通之進、香苗の夫婦。るいの境遇や背景が巧みに織り込まれていく。
事件と登場人物がどんな風に関わっていくのか、基本的な展開の型となっていくであろう「かわせみ」と「畝源三郎」「神林家」と東吾がどの様に動くかが示され、わざとらしい説明もない丁寧な導入と展開が重なっていく。
事件に絡むのは、長崎から出せない筈のものを江戸に持ち込む悪徳商人と、そこにつながっているかもしれない幕閣。
時代の不安定さと事件そのものの背景、登場人物の置かれた境遇が巧みに結びつく。事件自体はかなり突飛で大胆かもしれないが、それを受け止める登場人物たちの設定の巧みさには目を見張る。
幕切れの余韻もまた鮮やかで、ここから続くシリーズの雰囲気をしっかりと印象づけている。
「とりあえず始めてみよう」という軽い感じではなく、渾身の一作だったのではあるまいか。