御宿かわせみ「花冷え」

投稿者: | 2023年12月31日

最初は逢引かと見ていた客が、どうやら春を鬻いでいる様で、宿泊を断っているところから始まる。
宿泊を断らてて去っていく女を東吾が見かけ、どうやらそれが、深川で一目置かれている芸妓の千代次だということがわかる。
このエピソードでは、東吾やるいたち主要登場人物が直に事件に関わることがないまま、出来事が進行していく。
母親や弟のために深川から離れた場所で体を売る千代次。その状況に誰も口出ししないというのは、ただ放っておかれるだけのことに等しい。
手出しはしない。手出しはできない。普通はこうだ。そういうものが順番に並べられていき、悲劇が起こるが、状況は続き、それをただ読み勧めていくしかない。
千代次の境遇と、そんなことは全く知る由もなくただ風紀の取締を命じる幕閣という住む世界の違いと、春の夜がまた急に冷えるという締めくくりが作る余韻が、また一層「花冷え」というタイトルを際立たせる。