『佐助の牡丹』。
「三日月紋の印籠」で、久しぶりに素晴らしい数行。畝源三郎の妻、千絵の暢気さを、千絵を見かけたるいの内心を、そのまま視点を遊離させて、地の文と東吾の語りで解説する。淀み無く、一気に寄り道させられて、
その、のんびり屋のお千絵が額ぎわに汗を滲ませながら近付いて来たので、るいは自分からそっちへ走り寄った。
って、掴みにしちゃ長げえよ!と、突っ込みながらも掴まれているのでした。かなり映像的。
この巻は、「あちゃという娘」も、なかなかにええハナシ。機械的に配置されたええハナシ要素の組み合わせではなく、物語の〆に向けて、出刃包丁を研いだあちゃの心がほぐれていく流れが、とても丁寧で、結果的にええハナシになるという案配。十三夜の月という風景もあわせて、三章立て、序破急の急は、非常に良い感じの絵が浮かぶ話しの連続でした。