御宿かわせみ「卯の花匂う」

投稿者: | 2024年1月3日

東吾が代稽古を行う狸穴の道場に行く途中、一組の夫婦を見る。
年の割に老け込んだその様子と理由に対しての、東吾とるいの思いの違いも挟みながら、物語は進んでいく。
かわせみには、どうやら仇討ちらしい若い男女の客が逗留している。喜一郎とおくみ。喜一郎が父の仇を探していて、おくみはその女中。ひと部屋に泊まっているものの、主人と女中以上の関係ではないと、かわせみの女中のお吉が語る。
この二組、あるいは東吾とるいを加えれば、三組の対比、それぞれの思いと、仇討ちとはいえ、免状もなく、本当に仇を討つようなことがあれば私闘になり、実際のところ喜一郎は、刀を全うに扱える風でもなく、仇討ちを果たしたところで、帰っても相続する家督もないという状態。
この行き場の無さは、ある意味でこの三組ともに何かしら持っている状態で、その絡ませ方は、「東吾が見た光景」「かわせみの客」と積み上げられていき、収斂していく、かわせみの進行のひとつのパターンでもある。
因縁、因果をどこでどの様につなぎ合わせ、どうにもならなかった心の向きが変わるのはどうしてか。丁寧で繊細な運びの一編。

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