御宿かわせみ修行『八丁堀の湯屋』

投稿者: | 2004年7月6日

16巻
「煙草屋小町」、いつになく登場人物の内心を利用し、ユーモラス。ラストも、絵がしっかり決まり、冒頭では、ずっと別の事に気を取られていて、全く意に介していなかったるいが、おきまりの焼きもちやき。とにかく、終始絵が鮮やかに出て、良い感じ。

「かまいませんよ。今、お風呂をたきつけてますから……」
遠慮なく、お吉があけた嘉助の押入れに、ずらりと積んであるのは、煙草、煙草、煙草。
「これ、みんな、堀江六軒町の花屋の煙草だってことは、お嬢さん、あとは申し上げなくてもおわかりですよね」
るいのきれいな眉がきっと上ったのを見て
「お嬢さん、たまには若先生にお灸をすえないと……、殿方ってのは放っておくといい気になって、なにをなさいますやら、知れたもんじゃあございませんよ」
お吉が嬉しそうに、けしかけた。
そんなこととは露知らず、東吾は今日も花屋で買った煙草の包を袂に入れて、いそいそと大川端へ帰って行く。

「……煙草、煙草、煙草。」と、嘉助の押入れに詰まっているのに、また、煙草の包が増える。
煙草屋が事件の核だったのだけれど、源三郎に「東吾さんも行きがかり上、たまには店を見廻ってやって下さい」といわれて、気のない返事をしていた割に、煙草を吸わない東吾が、嘉助が消費しきれない程、頻繁に煙草を買いに行き、こんな形で露見してしまった次第。冒頭で、東吾から初めて煙草の包を貰ったときの嘉助の内心も引き立ち、この締くくりは上々。
続行。

収録作品
・ひゆたらり
・びいどろ正月
・黒船稲荷の狐
・吉野屋の女房
・花御堂の決闘
・煙草屋小町
・八丁堀の湯屋
・春や、まぼろし

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