越中地下倉庫・日々の記録

日々書いたものをネット上に放出していきます。

Audibleの方も気合が入っているというのを先に聞いて、本の前にAudibleを聞いたが途中でへこたれたので、やはり紙で。
へこたれた話しは、「初めてAudibleで小説を聞いている。」にまとめた。

素晴らしい腕力。良い感じで引き込まれて一気に読んだが、宗教二世の孤独や苦悩、宗教や信仰について云々という触れ込みは、正しく触れ込みでしかなく、首相暗殺があった状況を踏まえた宣伝文句に過ぎない。
ただ、作品自体は間違いなく、事件に着想を得た、悲劇的なラブロマンスと言えるだろう。

「直面した状況に一生を費やさざるをえないとしたら」そんな人間の物語だった。
二部に分けて語り手が変わり、第一部は母校の生徒たちの目の前で文部大臣を殺した犯人永瀬暁の手記。第二部はその現場に居合わせた女性作家の金谷灯里が書いたフィクションということになっている。
二部に分かれることで、一部の手記に書かれていたことと、二部のフィクションの中に、符号の一致が見られ、二人の幼い頃からの交錯が浮き彫りなる。
特に、永瀬の手記は当然ながら、金谷が育ってきた環境の外部で起こっているので、幼い頃から金谷が永瀬とのほんの少しの交錯をよすがにしてきたかの彩度が十分にせつない。

せつなさと同時に、永瀬の手記で語られていたことが、パズルのピースになって次々とはまっていく手際が見事で、第二部は「なにを語らないか」と「なにを語るか」のテクニックの素晴らしさに引っ張られているうちに、この「フィクション」が書かれていること自体のせつなさを知らされて小説が終わる。

文章から発生する龍を幻視する能力が存在し、龍を生じる文章を綴る能力が、確かにそこにあったとして、それも人が生きる世界の一部でしかない。
この異能の「なにを語らないか」は素晴らしかったが、金谷灯里のフィクションの中で、ここまでの答え合わせは必要だっただろうか。
むしろ、金谷が生きていた状況を「フィクション」として書かざるを得なかったか、本当に「フィクション」で、深読みするのであれば、このせつなさ自体が別の意図を持つものかもしれないもしれない。そんな加減で読者を放り出したとしたら、娯楽小説としてのパッケージされたこの作品のクオリティを損なう結果になっただろうか。

なにはともあれ、初めて読んだ湊かなえ。楽しく読書できた。

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