越中地下倉庫・日々の記録

日々書いたものをネット上に放出していきます。

実に40年弱ぶりの再読で、本当にほぼ忘れていた。展開があってから「ああ、そうだったわ」と思い出す感触と、この後の展開を思い出せない感触のせめぎあいが、読み手として幸運な体験につながった様に思う。記憶を消してもう一度というのは良く聞くが、たしかに悪くない。時間が逆行して、どうしたものか状況が掴めない小説なら、なおさらのことだ。

半生命の話しから、超能力を抑え込む反能力者の話しになった時点で、完全にディックにしてやられることになる。
展開の中に、退屈な手続きやお使いの消化が無いので、とにかく読んでいくしかない。
真実が揺らぎ、状況も悪くなっていく中で、読み手として自然にミスリードに誘い込まれていくこと、この物語中の着地点はここだと決まっても、読者としては「では、どうなるのか?」と半信半疑の状態で、あっというまに畳み込まれてしまった。

高校生の頃はそうでもなかったが、こちらも情けない爺さんになっており、マタドールで食事でもというのは、十分な締めくくりだったし、その後の幕切れも良かった。
完全にディックにしてやられた、楽しい読書体験だった。

Amazon:『ユービック』 P.K.ディック/浅倉 久志 訳/ハヤカワ文庫