越中地下倉庫・日々の記録

日々書いたものをネット上に放出していきます。

北原亞以子は以前、『慶次郎縁側日記』のシリーズを中心に読んで、深川澪通りのシリーズは、この『……木戸番小屋』だけさらっと押さえて深追いしていなかった。
先日、知人書店員が、『……木戸番小屋』の方が格段に良いと言っていたので、十数年ぶりに再読してみると、なるほど木戸番の夫婦、笑兵衛とお捨の二人を一応の主人公に据えていて、捕物帳にする必要もなく、事件にする必要がないと、かえって扱われる事柄の幅も広くなる。

北原亞以子の小説の登場人物は、皆どこかひねくれていたり、意地をはっていたり、なにか自分の中の「どうしても」に縛られている人物が多く、それが魅力でもある。
収録されているどの短編も、そういう傾向にあるのだけれど、登場人物それぞれの事情、それぞれの心持ちの動きが、過度にカリカチュアライズされずに描かれていて、それだけに書き込まれる主要な人物の存在感もしっかりしている。

笑兵衛、お捨の視点や、各話の中心になっている人物からの視点心理ばかりを追う作品だけでもないところも、読んでいて飽きのこない変化になる。「坂道の冬」での登場人物それぞれの心模様、「名人かたぎ」であれば伝次親分の思うところはどうだったかなど、登場人物の存在感は、どの話でも深く機能している。
「わすれもの」で、お捨が裸足で笑兵衛を追う辺りは、その後の経緯も他の短編で承知しているので、余計に鮮烈だった。

何が際立つのかという点で、北原亞以子の作品は、まさに機微につながる大きな動きと機微そのもの。物語の山場の前後、それぞれの重みがあって読み応えの感触がよい。

以後、このシリーズは各編の単位か、本ごとか、読んだら覚書を書いていくことにする。
手元のものは、講談社文庫だが、2024年に朝日文庫から再販されている模様。

Amazon:『深川澪通り木戸番小屋』 北原亞以子/朝日文庫